始まりは、とても小さな違和感でした。
町を歩き、人と話し、会議に参加する中で、確かに課題や可能性は目に入るのに、それをゆっくり考え、言葉にして、誰かと共有する「余白」がほとんどない ― そう感じたのです。
現代はとても速く、情報は絶え間なく流れます。何かを提案すれば、すぐに評価や反論が返ってくる。便利さと効率が進む一方で、私たちは「すぐに答えられる問い」しか口にしなくなってはいないでしょうか。
けれど、本当に大切な問いは、時間をかけて温めなければ形にならず、他者と交わって初めて広がります。そして、そのための安全な場は、思った以上に少ないのです。
器という構想
私たちは、この「問いの余白」を守る場が必要だと考えました。一人の専門家や組織が所有する場ではなく、誰もが問いを持ち寄り、混ぜ合い、持ち帰れる開かれた器。
器とは、問いを安心して置ける場所です。そこでは、否定や急かしはなく、「未完成のままでいい」という空気が流れています。その器を支えるのが、五つの原則です。
- 公正(Fairness) … 声の大小や立場に左右されず、問いが等しく扱われること。
- 共感(Empathy) … 数字や事実の裏にある感情や背景を理解しようとする姿勢。
- 自由(Liberty) … どんな形の問いでも置けること。
- 自治(Independence) … 自ら問いを選び、育てる主体であること。
- 革新的統治(Xenocracy) … 外からの新しい知や技術を安全に取り込む柔軟さ。
所作としてのWINE
しかし、守るだけでは問いは育ちません。成長させるには、状況や相手に合わせた動き――私たちはそれを所作と呼びます。
所作とは、決まった手順やマニュアルではありません。庭師がその日の陽射しや土の湿り具合を見て水を与えるように、料理人が材料の状態を見極めて火加減を変えるように、相手や場に合わせて自然に変化する動きです。
FELIXでは、この所作を四つに整理しました。
- WEI(Well-being & Empowerment Index) … 暮らしやすさや自己決定感、関係の豊かさを可視化して現状を確かめる。
- Intuition(直感) … 説明できない感覚をそのまま残す。
- Network(つながり) … 遠くの声や異なる立場を招き入れる。
- Exchange(交換) … 差し出し、受け取り、混ぜ合わせる。
これらは毎回同じではなく、その場や関係性に応じて変わる柔らかな関わり方です。
森のような広がり
器と所作を備えたFELIXは、一つのプロジェクトにとどまりません。問いが器の中だけで終わらないよう、複数の場を立ち上げました。
FELIX☆gamesでは問いを試し、FELIX☆WINEでは可視化し、FELIX☆collegeでは学び合い、Qchainでは記録し、Nozomiシリーズでは社会に返す。それぞれの場は森の枝葉のように異なる方向へ伸びますが、根は一つにつながっています。
私たち自身のためでもある
正直に言えば、この場は私たち自身のためでもあります。自分の問いを安心して置きたい。他者の問いに触れて、自分の視野を揺さぶられたい。そうした経験を続けられる場が、私たちには必要でした。そして、ここに来た人が「自分の問いはここで生きていい」と感じられること。その瞬間こそが、私たちがこの場を作り、続ける最大の理由です。
FELIXは完成されたシステムではありません。関わる人や問いによって、形も色も変わります。だからこそ、この場の物語は私たちのものではなく、ここに関わったすべての人が紡ぐ共同の物語です。
もし、あなたの中にも小さな問いがあるなら、どうかここに置いてみてください。それは、あなたにとっても、誰かにとっても、新しい物語の始まりになるかもしれません。