0章 (05) 友達という壁

小学校の夏休みが終わり、新学期が始まった。羽束澪(はつか みお)にとって学校は好きな場所ではあったが、友達との関係ではしばしば壁を感じていた。

夏休み中、水泳の授業で少しずつ成功を積み重ねたことで、澪の心には小さな自信が芽生えつつあった。しかし、友達の輪に積極的に入っていくことは依然として難しかった。澪は内気な性格で、騒がしい環境よりも静かな時間を好んだ。そのため、休み時間に友達が校庭で遊んでいる中、一人で教室に残り、本を読んでいることが多かった。

ある日の昼休み、澪が教室で本を読んでいると、同じクラスの友達が数人やって来た。

「澪ちゃん、いつも一人で本ばかり読んでるね。一緒に遊ばない?」

その言葉に、澪は顔を上げて微笑んだが、心の中では少し戸惑っていた。どう返事をしたらいいのかわからず、一瞬黙り込んでしまう。

「ありがとう。でも、今読んでいる本がとても面白くて」

友達は軽く頷き、教室を出て行ったが、澪は心の中で自分自身に問いかけていた。本当に本が面白いからだけだろうか、それとも友達と接することを恐れているのだろうか。

放課後、澪はいつものように羽束川の川辺へと向かった。川辺の静かな空間は彼女の心を落ち着かせ、内側に抱えている葛藤や疑問を静かに整理させてくれた。

川の水面を眺めながら、澪はふと友達の誘いを断ってしまったことを思い返していた。彼女は本当に一人でいることが好きだったが、心のどこかでは、もっと友達と交流したい気持ちも確かに存在していた。

「どうしたら友達とうまく話せるのかな」

川辺に座りながら、小さく呟く。その言葉は川のせせらぎとともに流れていくようだったが、彼女自身の中では切実な問いかけだった。

ふと、以前読んだ物語の一節が頭をよぎった。「人との距離は、少しずつでもいいから自分から歩み寄ることが大切」。その言葉を思い出した彼女は、小さく頷いた。もしかすると、次に友達が誘ってくれたら少しだけ勇気を出してみようと決意した。

その日の夕暮れはいつもより鮮やかで、川面に映る夕日の色が特別に美しく感じられた。水に触れ、ゆっくりと手を動かしながら、澪はこれからの自分について深く考え始めていた。

翌日、教室に入ると、昨日誘ってくれた友達と目が合った。澪は小さな勇気を出し、初めて自分から話しかけてみることにした。

「昨日は誘ってくれてありがとう。今日は一緒に遊べるかな?」

友達の顔がぱっと明るくなった。その笑顔を見て、澪は胸が温かくなった。これが自分にとっての大きな一歩だと、心の中で静かに喜びを噛みしめた。

澪はまだ完全に友達の輪に入れたわけではないが、この日の小さな勇気が彼女にとって確かな前進であることを、誰よりも彼女自身が強く感じていた。

やがて澪は気づく。この日から、自分が水の中で見つけた勇気を、人との関係にも広げていくことになる――。

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